TOP > バックナンバー > Vol.13 No.2 > 燃料噴霧の衝突によるエンジンオイル飛散量の定量化
本研究は、ポスト噴射時に燃料噴霧がシリンダ壁面に衝突する際に発生する潤滑油飛散量の定量化を目的としている。燃料成分の単一液滴を使用し潤滑油膜壁面に衝突した際に飛散した二次液滴の径および数を可視化計測し、二次液滴に含まれる潤滑油の質量分率をレーザ誘起蛍光法により計測する(1)ことで、潤滑油飛散総量が予測可能な実験式の構築を目指す。本稿では、衝突する燃料液滴径dinと潤滑油膜の厚さδの比である無次元膜厚δnon(=δ/din)が潤滑油飛散量に与える影響について報告する。
実機エンジンのポスト噴射を想定した条件下において、インジェクタより定容容器内に噴射された噴霧液滴の潤滑油膜壁面上への衝突挙動を動画1および図1に示す。壁面衝突後、燃料と潤滑油が混合した状態でオイルクラウンが形成され、時間経過とともにクラウンが成長しクラウンの縁であるクラウンリムから液糸が生成され、液糸が分裂することにより飛散液滴(以下、二次液滴)が発生する(2)。この二次液滴を可視化対象として潤滑油飛散量の定量化を行った。
Movie. 1 噴霧液滴衝突挙動
蛍光剤を添加した燃料の軽油をシリンジにより潤滑油膜に滴下し、レーザ誘起蛍光法により飛散した二次液滴の蛍光から潤滑油質量分率を計測した。無次元膜厚δnonと二次液滴中の潤滑油質量分率の関係を図2に示す。δnonが0.3までの範囲でδnonの増加に伴い、二次液滴中の潤滑油質量分率が増加する。無次元膜厚が大きいほどクラウンベース径は増加することから(3)、軽油液滴と潤滑油間の接触面積が増加し運動量交換が促進され潤滑油の飛散量が増加したと考えられる。
二次液滴数と二次液滴径潤滑油質量分率の計測と同時に、拡大散乱光撮影により二次液滴の径と数を計測した。無次元膜厚δnonに対する二次液滴径比(=二次液滴径dout/入射液滴径din)との関係を図3に、二次液滴径数との関係を図4に示す。図3より、無次元膜厚δnonの増加に伴い、二次液滴径比は増加している。Rayleighらは液糸分裂から液滴の生成過程において液糸と気体の速度差による気液界面の不安定性により生じた液糸表面の波が液滴分裂を引きおこし、速度差が減少するほど波長は大きくなる(4)ことを示しており、本結果は無次元膜厚δnonの増加に伴い液糸と気体の速度差が減少し、液糸表面の波長が大きくなったため、二次液滴径比が増加したと考えられる。
図4より、無次元膜厚δnonの増加に伴い二次液滴数は減少する。Yarinらはクラウンリムと周囲気体の速度差による気液界面の不安定性によって液糸が生成される(5)と示しており、本結果においては無次元膜厚δnonの増加に伴いクラウンリムと周囲気体の速度差および、液糸の速度と周囲気体の速度差が小さくなったことにより液糸数、液糸一本当たりの液滴生成数が減少し、二次液滴数も減少したと考えられる。
飛散量計測した二次液滴中の潤滑油質量分率、二次液滴径および二次液滴数の計測結果から、二次液滴の総飛散量と潤滑油の飛散量を算出し実験式を構築した。飛散する潤滑油の質量を入射液滴の質量で除して無次元化した潤滑油飛散量比と、二次液滴の総飛散量を入射液滴の質量で除して無次元化した二次液滴総飛散量比を図5に示す。ここで、Md:入射液滴の質量、Moil:クラウンから飛散する潤滑油の質量、Mout:クラウンから飛散する二次液滴の総質量、ρout:二次液滴の密度、ρfuel:燃料の密度、ρoil:潤滑油の密度である。図5より無次元膜厚δnonの増加に伴い二次液滴飛散量およびクラウンから飛散する潤滑油飛散量が増加することが示され、無次元膜厚δnonの増加に対する総飛散量の増加率と比較して、潤滑油飛散量の増加率は大きいことが明らかになった。
ポスト噴射条件下における単一液滴衝突時の潤滑油飛散挙動についてそのメカニズムを解明し、無次元膜厚に対する潤滑油飛散量を定量化する実験式を構築した。壁面上の液膜と衝突する液滴の物性が異なる場合の衝突挙動に関する先行研究例は極めて少なく、今後は衝突時液滴のWe数や粘性係数の影響をさらに調査し、今後の多様な燃料や潤滑油への適用性と、最終的には噴霧の潤滑油膜衝突時における潤滑油飛散量さらには燃料付着量の定量化を行う計画である。
本研究は自動車用内燃機関技術研究組合の委託事業の成果である。関係各位に感謝の意を表する。
コメントを書く