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Vol.14 No.6

量産初期のエンジンから1950年代まで
From early mass-produced engines to the 1950s
皆川 俊一
Shunichi MINAKAWA
日産エンジンミュージアム 学芸員
Nissan Engine Museum Curator

アブストラクト

 日産のエンジン技術の発達史を紹介する。日産エンジンミュージアム(横浜宝町)に展示されているエンジンを中心に操業時から’50年代までの代表的なエンジンと注目される技術を記載した。

1 日産自動車の創業まで

1910年 鮎川義介が戸畑鋳物㈱を設立。
1931年 ダット自動車製造の経営権を取得し自動車部を設立。
1933年 小型車製造部門を引き継ぎ、自動車製造㈱を設立。翌年日産に社名を変更。
「自動車の普及と共に、日本を成長に導く」という信念で操業(創業までの系譜を図1概観に示す)。

2 創業初期のエンジン

 創業当初、小型エンジンは7型、中大型エンジンはA型エンジンを用いた。1950年代に入り7型はD10型へ、A型はNB型へと進化した。また、小型エンジンの系列として英国のオースチンのエンジンをベースにC型が新規開発された(表1)。

2.1 7型エンジン(1934年)図2

 水冷直列4気筒ガソリンエンジン。サイドバルブ、サイドドラフトキャブレタ。ダットサン14型 ロードスター搭載。Bore 55.0mm x Stroke 76.0 mm、排気量:722cc、最高出力:15PS/3600rpm。
開発の背景:
 1931年に日産の前身であったダット自動車製造によって開発された495ccエンジンをルーツとし、国産部品での初量産エンジンであり、当時の最先端の技術が導入された。排気量が750ccまでの自動車は、無試験で運転免許が取得できた為722ccで設計された。
設計の考え方:
 1人乗りが当たり前の時代であったが、4人乗りや荷物運搬の対応可能なエンジン出力を目標にした。
当時のエンジン回転速度は3000rpm以下であったが、最高回転速度を4000rpmとし、20PS/ ℓを達成した(当時の相場は7PS/ ℓ)。
導入された技術:
高出力化を達成するため、主運動部品の軽量化(アルミ・ピストン、ジェラルミン・コンロッド()、アルミ・オイルパン等)と摩擦損失低減(ボールベアリング軸受け)を徹底的に行った。
その後1950年に排気量を860ccに拡大しD10型となった(図4)。


2.2 A型エンジン(1937年) 図5

 水冷直列6気筒ガソリンエンジン。サイドバルブ、ストロンバーグ気化器。ニッサン70型、80型搭載。Bore 82.0mm x Stroke 114.3mm、排気量:3670cc、最高出力:85HP/3400rpm。
・シリンダブロック:鋳鉄製、7ベアリング、ディ―プスカート、モノブロック
・シリンダヘッド:鋳鉄製。
・弁、弁駆動機構:サイドバルブ式、斜歯歯車駆動
 フルサイズの乗用車およびトラックを生産するにあたり米国グラハム・ページ社から設計、生産設備一式を購入し、生産したエンジン。OHV化など数々の改良を行い、1980年代まで大型商用車用エンジンとして長期に渡り活躍したエンジンの元祖である。

3 1950年代のエンジン
3.1 C型エンジン(1957年) 図6

 水冷直列4気筒ガソリンエンジン。オーバヘッドバルブ(OHV)。 ダットサン1000、210型搭載。Bore 73.0mm x Stroke 59.0mm、排気量:988cc 、最高出力:34PS/4400rpm、圧縮比:7.0。
・シリンダブロック:鋳鉄製、ディ―プスカート、モノブロック
・シリンダヘッド:鋳造製、バスタブ形燃焼室、カウンターフロー
・弁、弁機:2弁OHV式、プッシュロッド、ロッカアーム形、ローラチェーン駆動
・クランクシャフト:鍛造鋼製、3ベアリング
・インチサイズのネジを使用
C型エンジンの誕生経緯:
 太平洋戦争後の自動車技術の遅れを取り戻すべく英国オースチン社と技術援助契約を結びオースチン車の国産化に取り組んだ。このオースチンの1.5ℓ 1H型エンジンをベースに米人の技術顧問ロナルド・ストーン氏の助言により改良1.0ℓ化して誕生したのがC型エンジン。
エンジンスペックにかかわる経緯:
 オースチン1.5ℓのストロークを縮めることが良いとのストーン氏アドバイスに当初日産技術陣は反対。重量大、旧式などの理由。しかし氏は、生産設備の安定や製品品質に大きな影響があること、予想される過酷な使用条件に対し、壊れない、頑丈な事が第一であるとして譲らず、最終的に経営会議にてストーン案で決着した。

3.2 NB型エンジン (1953年)  図7

水冷直列6気筒ガソリンエンジン。サイドバルブ。480型トラック搭載。Bore 82.5mm x Stroke 114.3mm、排気量:3670cc、最高出力:95HP/3600rpm、圧縮比:6.8
戦前にグラハム・ページ社から技術導入したA型エンジンをベースに出力を向上し、改良したもの。
NB型エンジンのその後:
・1955年に排気量を4.0ℓに拡大したNC型とし、580型トラックに搭載。
・1959年 米人の技術顧問ロナルド・ストーン氏の助言によりOHV化など大幅な改造がされ、P型となり、680型トラック、キャリア4W73型、パトロール560型に搭載した。

出力の表記は発売当時のままとした。
1kW = 1.35962[PS](仏馬力)
1kW = 1.34102 [HP](英馬力)

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【参考文献】
(1) 後藤敬義:ダットサンの量産化と技術革新 後藤敬義氏口述記録(日本自動車工業振興会 昭和50年9月発行)
(2) 後藤敬義、田中常三郎:ダットサンことはじめ(ダットサンの50年 1983年 二玄社)
(3) 久保田篤次郎:ゴルハム式三輪車からダットサンまで 久保田篤次郎口述(日本自動車工業史口述記録集 自動車工業振興会)
(4) 浅原源七:日産自動車史話 浅原源七口述(日本自動車工業史口述記録集 自動車工業振興会)
(5) 畠村 易、保坂 透:日産自動車創業時の機械設備と製造技術 畠村 易、保坂 透 口述(日本自動車工業史口述記録集 自動車工業振興会)