TOP > バックナンバー > Vol.10 No.7 > 4 LNG燃料充填スタンドの建設と大型LNGトラック実証走行
いすゞ自動車は天然ガスを石油代替の重要な燃料の一つとして位置付け、天然ガス自動車の更なる普及を目指して大型LNG(液化天然ガス)トラックの開発を進めて来た。本稿では大型LNGトラックの普及促進のために行われたLNG燃料充填スタンドの建設と実証走行の結果について紹介する。
大型LNGトラックの普及を推進するため、環境省事業「大型LNGトラックおよび最適燃料充填インフラの開発・実証事業」(1)に参画した。事業の概要を示す。
本事業で建設されたLNG燃料充填スタンドはLNG車だけでなく、LNG燃料を圧縮後に気化することでCNG車にも燃料充填が可能な燃料充填スタンドである。(図4-1)
LNG燃料充填スタンドには以下に示す方式がある。
1) 飽和式:LNGを加温して飽和状態にして充填する。
2) 高圧式:貯槽内のLNG圧力を高めて充填。構造はシンプルだが、貯槽への燃料供給に専用の設備を必要とする。
3) ポンプ式:貯槽内のLNGをそのままポンプで圧送する。汎用ガス設備を転用したものが多い。
今回は車両の燃料システムに飽和式を採用したこと、ならびに既存の燃料供給設備に合わせて1)の飽和式を採用した。
図4-2に示すのは本事業により大阪南港地区に建設され、平成30年度より運用が開始された日本初の商業用途のLNG自動車用燃料充填スタンドである。また同年中には京浜地区にLNG充填施設が民間事業者により建設され運用が行われている。
大型LNGトラックは東京~大阪間にて営業運行を行った。(図4-3)運行頂いた2社の運送事業者には運行データの記録のほか、定期的に当該車両に関するヒアリングを実施して情報収集した。
実証走行により得られた結果を以下に示す。
本事業については事業目標が達成されたことを確認し2019年3月に完了した。
事業に協力頂いた運送事業者からは、振動・騒音などは既存の大型CNGトラックと同等であり、航続距離の長さなど使い勝手の向上を認められ、燃料価格次第では導入メリットありと概ね好評を頂いている。
LNG容器は断熱構造となっているが時間経過と共に燃料温度が上昇し気化が進む。この気化ガスをボイルオフガスと言い、車両稼働中燃料消費が行われている間は容器内圧の上昇はない。但し非稼働時には時間経過と共に容器内圧が上昇し安全弁が作動するため、非稼働時間は短い運用が望ましい。
実証走行中ノッキング回避のためのエンジン点火タイミング遅角制御の実行が認められた。
LNG成分のうち沸点が低いメタンから優先的に気化して放出されエタン・プロパン・ブタンなど重質分の割合が高まりノッキングしやすい燃料性状に変化したものと考えられる。
運行記録から燃料消費量を確認した結果、左右のLNG容器のうち片側容器の燃料消費量が少なく長期間燃料が滞留していることが燃料性状変化を早めていた。今回の実証走行では燃料満充填後に途中で注ぎ足し充填をせず、LNG容器内の燃料を充填毎に使い切る運用を行うことで対応した。
現在新たにLNG燃料充填スタンドを建設する場合、高圧ガス保安法によりLNG貯槽の地下埋設が必要となる。 一般にLNG貯槽は地上配置されるのが殆どであり、現在でもCNG燃料を充填する場合にはLNG貯槽の地上配置が認められている。地下埋設は主に経済性の面で課題があり、LNG燃料充填スタンド普及のためにLNG貯槽にかかわる法規制の緩和が望まれる。
今回、環境省事業の大型LNGトラックの実証走行により、当初目標を達成した。
今後実証走行にて得られた結果を大型LNGトラック開発にフィードバックを行い、天然ガス自動車のさらなる進化を目指して開発を進めていく所存である。