TOP > バックナンバー > Vol.10 No.5 > 3 日本発の空飛ぶクルマ“SkyDrive”
近年、いわゆる空飛ぶクルマ、厳密には電動垂直離着陸機・イーヴイトール(electric Vertical Take-Off Landing:eVTOL)の開発が世界各国で盛んに行われている。ヘリコプターに比べ、電動ゆえの低騒音性や、簡素な構造のための安価な機体・整備費用といった特徴があり、一般の人が空を利用する世界が近づいてきている。都市の渋滞回避や、離島・過疎地への移動、救急医療における医者の搬送といった用途が想定されている。本稿では、有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)およびSkyDrive(スカイドライブ)社が共同開発する、日本発の空飛ぶクルマ・SkyDrive(スカイドライブ)について、機体の特徴の分類を基に紹介を行う。
一つ目の切り口は、垂直離着陸が可能かどうかである(図3-1)。一般的に、垂直離着陸が可能な航空機をブイトール(Vertical Take-Off Landing:VTOL)と呼んでおり、代表例に、アルファベット(Alphabet)社のラリー・ペイジ氏が出資している、米キティホーク(Kitty Hawk)社の機体、コーラ(CORA)がある。多個のロータ(回転翼)を使って垂直に離着陸し、飛行時は固定翼とプッシャーと呼ばれるプロペラ(機体後部にある推進用回転翼)で飛行する。一方、垂直離着陸型でない機体の例としては、米テラフジア(Transition)社のトランジション(Transition)がある。こちらは通常の飛行機のように、垂直離着陸はせず、滑走路を必要とする。
二つ目の切り口は、固定翼の有無である(図3-2)。前述のコーラ(CORA)は固定翼を有し、飛行機のように滑空可能である。燃費面で有利であり、比較的長い航続距離(〜100km程度)が必要な用途に適している。ただし、固定翼を備える分だけ機体サイズが大きくなり、離着陸の場所には制約がかかる。一方、中国のイーハン(Ehang)社のイーハン184(Ehang 184)のような固定翼のない機体は、俗にマルチコプタータイプと呼ばれ、常にロータを回し続けることになるために燃費が悪く、航続距離は短くなる。ただし、機体サイズが小さくて済むため、より多くの場所での離着陸が可能であるという特徴がある。
三つ目の切り口は、地上走行の可否である(図3-3)。蘭パルヴイ・インターナショナル(PAL-V International)社のパルヴイ・リバティ(PAL-V Liberty)は、飛行に加え地上走行が可能であるが、走行ユニットが搭載される分だけ、ペイロード(搭載可能重量)が減ることになる。一方で、イーハンのような走行ユニットがないものは、地上走行が出来ずに、地上移動は他のモビリティを乗り換える必要があるというデメリットがある。ただしペイロードが大きくなり、一度により多くの人・物を運べるという利点がある。
有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)およびSkyDrive(スカイドライブ)社が共同開発する空飛ぶクルマ・SkyDrive(スカイドライブ)は、この三つの切り口で分類すると、垂直離着陸可能、固定翼なし、地上走行可能な機体となる。コンセプトモデルが、図3-4に示すSD-XX(エスディーエックスエックス)である。マルチコプタータイプによる世界最小クラスのコンパクトさを保ちながら、垂直離着陸機能と走行機能を備えることで、どこからでも飛び立て、さらに地上走行も合わせることで航続距離延伸を狙ったものである。目標である今夏のデモフライトに向けて、日々開発を行っている。
Fig.3-5 空飛ぶクルマ”SkyDrive”のある未来ー2030 Future World with SkyDrive-2030
空飛ぶクルマが実現すれば、人々が三次元で移動をするという、現在の常識とは全く異なる世界がやってくる。ただし、我々カーティベーターが一番大切にしているのは、ただ空飛ぶクルマを開発することではなく、「モビリティを通じて次世代の人達に夢を提供する」という想いである。次世代を担う子供達が、我々の作ったものを見て、「自分もこんなことがしてみたい!」というような気持ちを持ってくれたら何よりである。そしてこの活動は、我々の想いに共感し、応援してくださっている方々の力強いご支援によって成り立っている。この場をお借りして感謝を申し上げるとともに、目標である今夏のデモフライトに向けてSkyDrive社と鋭意開発を進めていく次第である。